【日本のデフレ対策はインフレ対策!?】『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』を解説

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こんちゃっす。木村です。

コロナ禍で各国がバンバンお金を刷りまくって

  • インフレが叫ばれたり
  • 株価がバブルの様相を呈してきたり
  • 仮想通貨も爆上げしたり

そもそも「お金」ってなにさ?みたいな感覚に陥ってるひとも多いのではないでしょうか。「貨幣は虚構だ」と『サピエンス全史』では語られていましたが、しかし「現実」の貨幣流通への理解は今ひとつ欠けています。そんな今だからこそ、「お金」と「経済」について整理して考える必要があります。

ということで、今回紹介するのはこちら。

『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』(中野剛志 2019年)

平成の過ちを繰り返さないために!
知っていますか? 税金のこと、お金のこと。
経済常識が180度変わる衝撃!

  • 東京大学卒業
  • 大学卒業後、通商産業省(元・経済産業省)入省
  • 名門エディンバラ大学大学院の博士号を取得
  • 現在は経済産業省参事官(グローバル産業担当)

という実績を持つ筆者が、「『これ以上は無理!』というくらいに分かりやすく」経済学を解説した本になります。文章や表現が平易で、経済学に触れたことのない大学生、社会人にもわかりやすい一冊となっています。帯にある「読まれると経済学者・官僚が困る本ナンバー1」という文字がそそられますね。

本書を読み解くにあたり、重要なキーワードがこちらの2つ。

  • 合成の誤謬
  • 信用貨幣論

今回はこの「合成の誤謬」について解説していきます。

日々の経済ニュースの見方が変わる、文字通り「目からウロコが落ちる」ような内容ですので、太字の部分だけでも読んでいってください。

KEYWORD

合成の誤謬 信用貨幣論 インフレ デフレ デフレスパイラル ハイパーインフレ 需要/供給 バブル景気 構造改革

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合成の誤謬とは

合成の誤謬ごびゅう」とは、個々の正しい行動が積み重なった結果、全体として好ましくない事態がもたらされることを指す経済学および論理学用語です。

たとえば、「節約」というものは個々の家庭で見ると家計に対してプラスに働きます。しかし、社会全体が「節約」といって消費を行わなければ、経済が回らず、途端に不景気になってしまうことでしょう。

誤謬(ごびゅう)

あやまり、間違いのこと。
「誤」が「あやまり」と呼ぶように「謬」も「あやまり」と読みます。
また、「合成の誤謬」とは反対の意味で「分割の誤謬」という言葉があります。つまり全体で見たときに正しいことでも、部分で見たときに誤りであることを指します。「アメリカは世界一の経済大国だ(全体)。だからアメリカに住むひとはみんな金持ちだ!(部分)」

こうした「合成の誤謬」は、国民一人ひとりが「合成の誤謬になっちゃうから節約しないようにしよう!」と意識して改善するものではなく、政府が政策として経済の手綱を握る必要があります。なぜなら、部分としての個人の選択は「正しい」のに全体としてみると「正しくない」のが「合成の誤謬」です。解決すべきは部分を管理する個人や企業ではなく、全体を管理する政府なのです。

日本のデフレ対策はインフレ対策!?

インフレとデフレとは?

まず、インフレ(inflation)とデフレ(deflation)を理解しましょう。

インフレとデフレはそれぞれ「物価が上昇・下落し続ける現象」を指します。これら物価の上昇下落は、モノの需要と供給のバランスによって生じると考えられています。たとえば、供給量が少ないのに欲しがるひとが多い場合は、値段が多少高くとも売れるため、物価が上昇します。反対に、供給量が多いのに需要が少ない場合は、値段が高くては売れないため、物価が下落します。

また、別の言い方をすると、インフレはお金の価値が下がり、デフレは上がることも意味します。そのため、デフレ下ではお金の価値が上がり続けるため、ひとびとは消費するよりも貯蓄にお金を回すようになり、よりいっそう需要が減り、消費が落ち込むことになります(=デフレスパイラル)。

ここまでを一旦まとめましょう。

インフレ

インフレーション(inflation)
・物価が上昇し続ける現象
・需要過剰/供給不足
・お金の価値が下がる

デフレ

デフレーション(deflation)
・物価が下落し続ける現象
・需要不足/供給過剰
・お金の価値が上がる

インフレ対策とデフレ対策

このようなインフレ、デフレは、過熱すると「お金の価値がなくなり、紙切れ同然になる(=ハイパーインフレ)」や「不景気がさらなる不景気を生む(=デフレスパイラル)」のような状況に陥ります。そこで、各国の政府はインフレ率をコントロールしようと「インフレ/デフレ対策」を行います。

それでは、インフレ/デフレ対策はどのように行われるのでしょうか。

ジンバブエのハイパーインフレ

イギリスの植民地であったジンバブエが独立。独立を率い、ジンバブエの初代首相となったムガベは、自国の白人農家が所有する土地を取り上げ、外資系企業に政府へ株式を譲渡するよう要求しました。その結果、ジンバブエで農家をしていた白人、ジンバブエで暮らしていた富裕層が国外へ逃げます。農作物や工業製品の作り手が減り、供給不足・物価高騰に発展。物価が高いならとお金を刷りますが、供給不足が解決しないため、物価は相対的にさらに高騰。負けじとお金を刷り、より高騰。最終的には、有名な「100兆ジンバブエ・ドル紙幣」が刷られるまでに至ります。

インフレ対策

まず、インフレ対策について。インフレの根本要因は「供給不足/需要過多」。そこで政府が行うべき政策は、「供給量を増やし、需要を抑制する」ということです。具体的に例をあげると、以下のようになります。

  • 公務員削減
  • 公共事業削減
  • 消費税の導入・増税
  • 金利引き上げ
  • 規制緩和と自由化
  • グローバル化

デフレ対策

次に、デフレ対策について。デフレの根本要因は「供給過多/需要不足」。そこで政府が行うべき政策は、「供給を抑制し、需要量を増やす」ということです。具体的に例をあげると、以下のようになります。

  • 公務員採用
  • 公共事業追加
  • 消費税の廃止・減税
  • 金利引き下げ
  • 規制強化と事業の保護
  • グローバル化の制限

どうしてこのようになるのかというと、国民の「消費」をコントロールする際、公務員採用、公共事業追加はあらたな消費の開拓に繋がります(=インフレ化)。仕事を与える=消費が増えるためですね。また、規制緩和や自由化は、企業間の競争が激化すると供給量が増え、物価は低下します(=デフレ化)。自由化の更なる拡大がグローバル化です。

日本のデフレ対策とはなんだったのか

日本はバブル崩壊以後、「失われた20年」と呼ばれる長いデフレ経済に悩まされていました。デフレ下では経済成長が鈍化します。そのため1995年から2015年の経済成長率(名目GDP成長率)ではマイナス20%を記録し、他国が成長を見せる中、最下位となります。この間、日本政府は数々の「デフレ対策」を実施したはずでした。その際たる例が、1996年より実施された「構造改革」です。以下に「改革」の内容を書き連ねてみましょう。

  • 公共事業の削減
  • 消費増税
  • 規制緩和と自由化
  • グローバル化

先の「インフレ/デフレ対策」を見比べて「おや?」と思ったひとは賢明です。実は日本が「デフレ対策」として行ってきた数々の政策は、実はインフレ時に行うべき「インフレ対策」だったのです。バブル崩壊でデフレを警戒すべきそのタイミングで、「インフレ対策」を行い、よりいっそうのデフレを呼び込んでしまったのです。

えっ、えー!

このような事態を招いたのはどうしてでしょう。それは先で説明した「合成の誤謬」にあるのだと、筆者は説きます。

合成の誤謬とデフレ対策

再度、「合成の誤謬」を確認しましょう。「合成の誤謬」とは、個々の正しい行動が積み重なった結果、全体として好ましくない事態がもたらされることです。言い換えるならば、ミクロの視点とマクロの視点は異なるということでもあります。

それでは、改めて、本来行うべきデフレ対策を確認してみましょう。

  • 公務員採用
  • 公共事業追加
  • 消費税の廃止・減税
  • 金利引き下げ
  • 規制強化と事業の保護
  • グローバル化の制限

構造改革」でやろうとしていた「政府の無駄を省き、国際競争力を高める(=公共事業削減&グローバル化)」は一見すると良いもののように聞こえます。一方で、「デフレ対策」は「公共事業の追加」や「規制強化」「グローバル化の制限」など、「政府の無駄を増やして、国際競争を避ける」とも言える政策が並びます。デフレ下で誰も彼も支出を減らし、少しでも生産性を向上して競争力を高めようとしている中、こうした「デフレ対策」は愚策のようにも見えてしまいます。

しかし、実はこれこそが「合成の誤謬」の罠です。

「国民が身銭を切っているのだから、政府も支出削減しよう!」という言葉は、聞こえは良いものの、デフレ下において「供給過多/需要不足」を改善する政策にはなりえません。そのためには無駄とも思える公共事業を増やし、需要を増やす必要があります。デフレ下では、以下の優先順位となります。

  • 最善の策:必要なものを造る公共投資
  • 次善の策:無駄なものを造る公共投資
  • 無策:公共投資を増やさないこと
  • 最悪の策:公共投資の削減

「穴を掘って穴を埋める」だけでもいいから、需要の創出を図る必要があります。しかしながら、日本ではこの「無策」と「最悪の策」ばかり行ってしまい、デフレをよりいっそう長引かせてしまったようです。

本来、「緩やかなインフレ(=好景気)」時には最善とされる政策でも、デフレ時には最悪の策に裏返ってしまいます。それまで「間違い」とされてきた政策に舵を切るのは、国民の理解を得るのが難しい。国民の「政府も身を切れ!」という声に対して、誰も「説明」ができなかったことが、最大の愚策だったのでしょう。

まとめ

インフレは「供給不足/需要過多」、デフレは「供給過多/需要不足」によってもたらされます。バブル景気が終わり、デフレに傾く中、日本政府は「供給過多/需要不足」をよりいっそう悪化させる「インフレ対策」を行ってしまいました。こうした背景には「合成の誤謬」が隠れています。「合成の誤謬」とは、個々の正しい行動が積み重なった結果、全体として好ましくない事態がもたらされること。一家庭や、一企業では正解とされる経営判断でも、政府の政策としては愚策になり得るのです。

日本は民主主義国家です。政府とは国民の意思の反映です。こうした「ミクロの集積がマクロになる」という構造は「合成の誤謬」と重なります。国民の支持を得られなければ政策は実行できず、支持を集めやすい政策ばかりが行われてしまいます。ゆえに良くない政策だらけになってしまう……「デフレスパイラル」みたいですね。

こうした「負の循環」は「理解」によって断つことができます。
理解を深めて、知の輪を広げていきましょう。

本書ではこのあと「信用貨幣論」(貨幣は負債の一形式!?)が語られ、仮想通貨や財政赤字についても触れられます。「目からウロコが落ちる」一冊ですので、先が気になる方はぜひご一読ください。

  

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