【予測された人生を歩むな】『弱いつながり 検索ワードを探す旅』を解説

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こんちゃっす。木村です。

ネットの海では、広く「検索ワード」を知っていないと、同じところをグルグル泳ぎ回ることになります。広大な海ですが、検索ワードを知らなければ海に入ることすらままなりません。当ブログでは「知識を広げる『検索ワード』を探す」ことを目的としていますが、実は、この考えには元ネタが存在しています。

ということで今日紹介するのはこの一冊。

弱いつながり 検索ワードを探す旅』(東浩紀 2014年)

Google検索をはじめとしたWebサービスは、先回りして「予測」を提示してくれます。たとえばYouTubeのオススメ動画は、あなたと誰かとでは全く異なる動画がオススメされてるはず。広告も、ひとりひとりに合わせた広告が表示されます。

このようなパーソナライズされた「予測」と、そこに潜む危うさを、2014年で既に論じていたのが本書です。今になって振り返ると、かなり時代を先取りしていた本だとわかります。

一度きりの人生を有意義なものとすることは、新たな「検索ワード」を見つけることでもあります。Googleの予測から脱し、自分だけのかけがえのない人生をつかみ取りましょう!

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「弱い絆」が希薄化するネット社会

※本書には、タイトルにもなっている「弱いつながり」という語は登場しません。その代わり、「弱い絆」という語で書かれます。本記事もそれにならい、「弱いつながり」ではなく「弱い絆」と表記します。

弱い絆(ウィークタイ)

アメリカの社会学者、マーク・グラノヴェターは「弱い絆(ウィークタイ)」という概念を提唱します。1970年代、ボストンに住む300人弱の男性ホワイトカラーを対象に調査を行ったところ、多くの者が「ひととの繋がり」によって職を見つけているということがわかりました。そして興味深いことに、職場の上司や親戚などではなく、「たまたまパーティーで会っただけ」などの、浅い関係のひとがきっかけとなった転職の方が満足度が高かったという調査結果が出ました。

どうしてこのようなことが起きるのでしょう。ここには、ある逆説が隠れています。

転職を考える「木村さん」がいるとします。木村さんは、自分をよく知る友人たちに転職の相談をします。友人たちは木村さんの能力や性格などを知っていますから、「木村さんのために」と提案・紹介する転職先は、どれも「木村さんならやりそう」な予測可能なものばかりとなってしまいます。その点、パーティーで知り合っただけのような浅い関係では、木村さんの能力などをまだ知らないために、木村さん自身では予想もつかなかった転職先を紹介してくれることがあるのです。

グラノヴェターはこのような浅い関係を「弱い絆(ウィークタイ)」と呼びました。弱い絆において重要なのは、想定外・予測不能といった「ノイズ」にさらされること、ノイズのある環境に身を置くことです

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ネットは絆を強くする

「ネットの関係性は浅いから……」

インターネットの発展に伴い、人と人との絆は、より希薄化しているという論調があります。しかし著者の東浩紀は「ネットは、強い絆をどんどん強くするメディアです」と言い切ります。つまり、「弱い絆」を考えたとき、ネットはリアルに比べてノイズ(=想定外・予測不能)となる情報には出会いづらくなってしまうというのです。これはどういうことでしょう。「ノイズ」に着目し、SNS、Google検索を初めとしたWebコンテンツを確認しましょう。

SNSの場合

Twitter、Facebook、Instagram。現在、多くのSNSが活用されています。これらSNSでは、当然ながら「知っている人・趣味嗜好の似通っている人」同士が繋がります。また、SNSは「おすすめユーザー」として、「友人かも知れないひと」や「趣味の近いひと」を紹介し、あなたと結びつけようとするメディアでもあります。こうしてSNSによって結びつけられた関係は、これまでの関係性の維持と強化に繋がります逆に言えば、「まったく知らないひと」や「趣味が正反対のひと」と接する機会が減ります。つまりノイズの入り込む余地が少なくなるのです。

Google検索の場合

このような「強い絆」をより強化するものの代表として、著者は「Google検索」を挙げます。

Google検索は「知りたいことだけ知る」ということに特化したメディアです。タピオカの話題のお店を調べたいひとは「タピオカ 新宿」などと検索すると思いますが、タピオカの原料である「キャッサバ」とは検索しないはず。すると当然、「自分が知りたいこと」のみが集まります。

こうした「知りたいことだけ知る」をさらに後押しするように、Google検索では「予測検索」という機能があります。

Google検索では、ひとつの検索ワードを入力するだけで複数の「予測」を提示してくれます。検索の際に便利ですよね。ただ、この「予測」は、同じ検索ワードであっても、ひとりひとり異なる予測結果を表示しているのをご存じでしょうか。それどころか、同じ検索ワードであっても、表示される検索結果も異なるのです。

Googleでは、これまでの検索履歴から、あなたの傾向を判断し「こういうことが知りたいんでしょ」と検索に反映してくれます。もちろん便利な機能ではありますが、「Googleが提示する『あなた』という枠組み」から抜け出せないということでもあります。つまり、ここには「予想外・予測不能」というノイズが少ないのです。

パーソナライゼーション

本書が出版された2014年に比べ、身のまわりではGoogleにとどまらず、「先回りして予測してくれる」サービスが数多く登場しました。YouTubeのオススメ動画や、Netflixのオススメドラマ、Amazonのオススメ商品などなど。身のまわりには数々の「オススメ」で溢れています。加えてそれらは高い精度でオススメされて、確かに自分の好みに合致していることでしょう。

このことは「パーソナライゼーション」もしくは「One to One マーケティング」と呼ばれます。

パーソナライゼーション

パーソナライゼーション(Personalization)とは、顧客のデータをもとにその属性を分析し、顧客ごとに最適化されたサービスを提供するマーケティング戦略。「One to Oneマーケティング」とも。

こうした「パーソナライゼーション」は、利便性や効率化といったメリットがある一方、「もしかしたら知ることができたかもしれない」という可能性も潰します。

もしかしたら、自分でも気づいていない才能があるかも知れませんし、知ることのなかった興味深いものがあるかもしれません。

ネットが与えてくれる、フィルター越しの「自由」から抜け出し、あなただけの「自由」を獲得するためにも「弱い絆」は必要なのです。これは別段、「もうネット使うのやめようぜ!」という話ではありません。むしろ、ネットをうまく使いこなすことによって、ネット社会の恩恵を受けられるということなのです。そのためには、自分が知らなかった新しい「検索ワード」を見つけることがなによりの近道です。

検索ワードを探す旅

「Google検索」と「検索ワード」

Googleで検索をすれば、どんな情報でも得られる世の中になってきました。しかし「どんな情報も得られる」はあくまでも理想論であり、「限られた情報のみが得られる」が現実です。ネットでは知りたいことしか知ることができず、知りたいことすら、知っていることの延長でしか知ることができないのです。

Googleで検索するためには「検索ワード」を打ち込む必要があります。しかしそれは、調べるための検索ワードを知っていることが大前提となります。ぼくたちは、検索すべきキーワードを知らないものをGoogleで調べることはできません。「どんな情報でも得られる」はずの現代における「無知」とは、「検索ワードを知らないこと」なのです。

「検索ワード」は、ネットの中ではなくリアルにこそ多く転がっています。著者は「検索ワード」を見つけるひとつの行動として「旅」を挙げています。

ネットを捨てよ、旅へ出よう

著者はインドの「ケーララ」州というキーワードを得られたことについて、以下のように記述しています。

しかしここで決定的に重要なのは、いまぼくがしゃべったことは、じつはほとんど日本語で、インターネット上に当たり前にある情報だということです。でもぼくは知らなかった。読者のみなさんも、ほとんどのかたは知らなかったと思います。ネットでいくら情報が公開されいても、それは特定の言葉で検索しなければ手に入らない。ケーララの情報に辿り着くためには、検索で「ケーララ」と入れなければならない。それがネットの特性です。ではぼくはどうやって「ケーララ」に辿り着いたか。

それはインドに行ったからです。現実にインドに行かなければ、ケーララを検索する機会はなかったでしょう。生涯調べることがなかった言葉かもしれない。

「旅」とは「予想外・予測不能」の連続です。普段の生活環境から抜け出し、未知の地へ足を踏み入れる。特に海外では、言語も変わる。当然、見るべきウェブサイトも変わってきます。得られる情報のランダム性は、「ノイズ」となり「弱い絆」へとつながっていきます。

寺田修司は『書を捨てよ、町へ出よう』という評論集を書いています。「読書なんていらねぇよ!」という意図でなく、「読書」と「町へ出る」ことの相補関係を書きたかったのかな、と思います。

このことは「ネット」と「旅」にも言えることなのではないでしょうか。東浩紀は旅の重要性を以下のように表現します。

自分探しでなく、新たな検索ワードを探すための旅。ネットを離れリアルに戻る旅ではなく、より深くネットに潜るためにリアルを変える旅。

つまり、旅によって自分の知らなかった「検索ワード」を新たに知ることで、ネットにおける情報収集の幅も広がり、精度と深さも増すのです。

まとめと補足

本記事のまとめ

ネットは先回りして「あなたらしさ」を提示してくれるメディアです。たとえば、Amazonではこれまでの購入・閲覧履歴や類似商品購入者の履歴から、オススメ商品を紹介してくれます。その中には、グッとくる商品がいくつもあることでしょう。こうした「利便性」は、「ランダム性」を犠牲にして成立しています。

マーク・グラノヴェターが提唱した「弱い絆」という考えでは、「身近なひとの情報提供よりも、赤の他人からの情報提供の方が人生を好転させる」という奇妙な逆説がありました。これは、身近なひとが提供してくれる情報は「あなたらしさ」から逸脱しない予定調和な情報だからです。その点、赤の他人は「あなたらしさ」を知らないために、まったく予想外な情報を提供してくれる可能性があります。この「予想外」な部分が、人生へ良い影響を及ぼします。

一方、ネットに繋がり続ける現代では、「弱い絆」が希薄になります。交友関係や行動でさえも予測されてしまい、「あなたらしさ」から抜け出せなくなってしまいます。

それではどうしたらGoogleの先回りから逃れられるのでしょう。そのためには、予測に囚われない新しい「検索ワード」を獲得する必要があります。「検索ワード」を見つける1つの方法として、「旅」を紹介します。あえて普段いる環境から身を置くことで、得られる情報にランダム性を持たせることができます。そして旅で得られた「検索ワード」は、よりネットを深くまで潜る手がかりとなります。

一度きりのかけがえのない人生。ランダム性に身をさらすことで、誰かに示されるわけでない「自分なりの人生」を歩めるかもしれません。

本書について

本書では、著者・東浩紀が旅した国々と、そこで得られた知見が巧みな表現で描かれます。台湾、インド、アウシュビッツ、チェルノブイリ、韓国、バンコク。「検索ワード」や「ネット」だけに留まらず、「言葉」や「他者理解」が通奏低音となっています。また、自らの旅だけでなく、「観光地」という形にも着手します。

著者は「福島第一原発観光地化計画」なるものを計画していました。震災と原発事故に伴い「福島/フクシマ/Fukushima」が記号として一人歩きしていった経緯があり、著者は「知」の糸口として「観光地化計画」を考案します。本書では、当該被災地を呼び表すキーワードの模索をはじめとした「観光地化」について熱く語られます。気になる方は是非ご一読ください。

※「知」とその補助輪となる「観光」というあり方は、2018年に出版された『ゲンロン0 観光客の哲学』により詳しく記載されています。

補足 コロナ禍で「弱い絆」を得る7つの方法

2020年、新型コロナウイルス(COVID-19)の蔓延により、国外だけでなく国内の旅も行いづらくなりました。本書で勧められた「旅」という手段が取りづらくなり、「弱い絆」が一層希薄なものとなっているひともいるのではないでしょうか。また「リモート」によって生活空間の区切りが曖昧になることも「強い絆」に拍車をかけます。

最後に、「旅」に変わる「ランダム性」を獲得するための方法をいくつか紹介します。

紙の辞書を引く

電子辞書のメリットは、検索の早さと持ち運びのしやすさですが、こと「ランダム性」が目的となると紙の辞書に軍配が上がります。パラパラとめくるだけで直接「キーワード」を獲得することができます。

百科事典を引く

百科事典の良さは、網羅性とわかりやすさです。文字だけでなく絵としての理解も得やすく、情報と情報の関連性も把握しやすいものです。とくに『小学館こども大百科』のような、子どもにとってもわかりやすい百科事典は、大人が読んでも発見が多いのでオススメです。

本の目次を見る

「本の読み方」関連の本では「目次をしっかり読もう!」と書いてあります。目次は本の簡易な要約であり、各章の「キーワード」も目次に記載されています。こうした「キーワード」を拾い、気になる章を軽く目を通してみましょう。

本屋を一周する

本屋に入ったら小説やビジネス書など、決まったコーナーへ足を運ぶひとは多いと思います。しかし、それ以外のコーナーにもお宝は隠れてます。本を買ったり手に取る必要はありません。本屋をぐるっと1周するだけでOK。知らないジャンルの知らない本が、あなたを待ってます。ただ、「コロナ禍の」と言いつつ外出を伴ってしまうのが難点。

旧友へ連絡する

数年連絡をとってなかった友人に、メッセージを送ってみるのをオススメします。もしかしたら違う職に就いているかもしれませんし、自分の記憶と現在の雰囲気とのギャップを感じるかもしれません。ただ、その「ギャップ」こそが自分の手の届かない部分、「ランダム性」ですので、ギャップを楽しみましょう。

Wikipediaのおまかせ表示

Wikipediaには「おまかせ表示」という機能があります。たくさんのWikipedia記事の中から、ランダムで記事を表示してくれる機能ですね。かなり小さな話題だったり、まったく興味がない記事に飛ぶこともあるので、なかなか面白そうな記事に飛べないのが難点ではあります。ただ、知らない記事をたくさん見ることの出来る素晴らしい機能です。

当ブログを読む

最後は自薦になって恐縮ですが、当ブログでは「知識を広げる『検索ワード』を探す」一助になることを祈って開設いたしました。下調べには定評があるので、ちょっぴり深掘りした情報をお届けしています。また、Twitterでは普段の調べ物の「ブログとしてまとめるほどじゃないよなぁ」という小さな知識ネタも投下してます。よかったらフォローお願いします。→@kmr_blog

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