【アートは投資】『教養としてのアート 投資としてのアート』を解説

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こんちゃっす。木村です。

みなさん、アートって好きですか?
「アート」といえば「よくわからないもの」の代名詞ですので、興味ないってひとも多いと思います。

みなさん、お金って好きですか?
「当たり前じゃい、貯金だって株式投資だってしとるわい」って声が聞こえてきます。
ぼくもお金好きです。

それでは「アートはお金になる」と聞いて、みなさんはどんな感想を抱かれるでしょうか。

今回紹介する本はこちら。

教養としてのアート 投資としてのアート
『教養としてのアート 投資としてのアート』徳光健治

タイトルを見て、こう思ったはず。

「あー、あれだろ。ビジネスパーソンたるものアートの教養なきゃ会話についていけないとか、名画を見ることで精神力高める的な、自己投資の本でしょ」

ぼくもそう思いました。

ただ内容は全く違います。ひとことで紹介するなら、

アートは資産形成としての投資になり得る。

株や債権とは異なるオルタナティブ資産として、ポートフォリオにアートを組み入れてもいいかもしれません。

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アート投資の現在

アート購入は資産形成の手段

8兆円。

これが何の数字かわかりますか。

正解は世界のアート市場の規模です。

対して日本国内のアート市場の規模は、500億円ほど※1
全世界で見ると1%に満たない規模感であることがわかります。ちなみにアメリカの市場がその4割を、続いて中国が1割を占めます。

このように海外に目を移したとき、アート市場の大きさに度肝を抜かされます。

それではどうして盛んに売買が行われているかというと、単に美しさといった「文化的価値」だけでなく「資産的価値」着目されているためです。

ひとりのアーティストが生涯でつくることのできる作品数が限られてしまうため、需給バランスに応じて価値が上がることは容易に想像がつきます。作品の価値は10倍〜数十倍となることも少なくありません。

また、株式や債券など他の金融商品が経済と密接に関わっているのに対し、アートは(もちろん経済からの影響も少なからずありますが)不況に際してもそれほど価値が落ちないという特性があります

つまりオルタナティブ投資(伝統的資産とは異なる対象への投資)という側面もあるのです。

価値の上昇効率のよさと、リスク分散にもなるという「攻めにも守りにもなりうる」ことが、アートへの投資の魅力とも言えます。

一方で、売買手数料が15〜20%(!)もするため、ポートフォリオに占める割合は5%程度に落ち着くことが多いようです。

それでは、どうしてアートが投資対象となるほど、市場が活発になったのか。
ヒントは「よくわかんねーわ」と言われる「現代アート」にあります。

※1 本書では「百貨店などで販売されている古美術やおよそ現代アートとは呼べないような作品を除くと」500億円ほどと述べている。2019年のデータでは、日本全体のマーケット規模は2500円ほど。全世界では7.58兆円。
参考:日本のアート産業に関する市場調査

現代アートの誕生 マルセル・デュシャン「泉」

マルセル・デュシャンというアーティストをご存知でしょうか。

コンセプチュアル・アートという概念をつくった人としても知られていますが、いちばん有名なのは「泉」という作品でしょう。

さぞやご立派な作品かと思いきや、

マルセル・デュシャン「泉」1917年

「便器やん!!!」

便器なんです。しかも、どこかで買った既製品の便器にサインしただけ

「アートってわかんねーわ」と思うんですが、当時のひとも同じ感想だったようで「こんなもん、美術館に飾れるかボケがー!」と最初は展示を拒否されたそうなんです。

ただ、そうした反応にこそ、この作品の狙いが現れています。

デュシャンの「泉」を観たひとは、いやが上にも「アートとは何なのだろう」と考えざるを得なくなります。「美しいもの・すばらしい技術・荘厳な歴史」そういう基準でない「考えさせる」という作品です。

つまり「考え方・考えることそのもの」をアートに昇華したのがこの作品なのです。

デュシャン以降、「アート」という言葉が指し示す幅が広くなり、「何を表現するのか」を重視されるようになりました。これが「現代アート」の始まりです。

多くの人が思う「アートってよくわかんねーわ」という感想は、実は「現代アート」の本質と切っても切り離せないものなんです。

鑑賞から投資へ

このように技法でなくコンセプトを評価する見方が増えたことで、アートが「技術が無くてもつくれるもの」に変わります。そのため、誰もがアーティストになれる時代が到来し、作品数が増えることでアート市場の売買が活発化。供給量・需要量ともに増えることで、売買を行う中間業者が増えていきます。

アート市場はまだ拡大の最中です。つまりアートの価値も市場規模に相関して高くなることを意味します。市場規模の拡大に伴い、そこへ目をつけた資産家がポートフォリオに組み入れ始めました。

こうして、「文化的価値」と「資産的価値」が両立し、投資対象になったのです。

「目で見て楽しめる&投資にもなる」というのは他の金融商品には見ることのできない特性とも言えます。似てるものとしては、「住むことができる&投資にもなる」不動産投資でしょうか。ただ、不動産ほどのメンテナンスを必要としないという意味では、誰でも手を出しやすい投資対象です。

そろそろ「で、何買えばええねん」という声も聞こえてきそうなので、本題。

アートを買う際、何に着目して買うべきなのでしょうか。どんなアートが価値高くなるのでしょうか。

「どんな」アートを買うのか

アートの価値≠技術

まず、アートを買う上での鉄則なのですが、

「自分の好みで買わないこと」

です。

「オレの第六感が買えと言っている!」

といった脳内の囁きはガン無視してやりましょう。

先に見てきたように、見た目の美しさ(技術)が必ずしもアートの価値に結びつくとは限りません。

「どう表現するのか」や「何を表現するのか」という観点で購入する必要があり、結果として「自分の好み」や「ビビッときた直感」は宛てにならないものです。

「自分の好みで買わないこと」を理解した上で、購入する基準をお伝えします。

それは以下の2つです。

  • 発明品であること
  • インパクトがあること

それぞれ見ていきましょう。

発明品であること

「発明品」とは、「これまで存在しなかった技法、制作方法、コンセプト、表現方法」であるということです。

たとえば、ポール・セザンヌという画家がいます。

ポール・セザンヌ「首吊りの家」1873年

セザンヌの作品は、当時「ヘタだ!」と評されるのですが、徐々に「ヘタだけどなんかいい!」という受け入れられ方をします。ちょうどマンガ家・タレントの蛭子能収さんらが「ヘタウマ」と呼ばれ持て囃されたのと似てますね。

セザンヌは、情景を分解・再構築する技法を確立し、のちの画家へ大きな影響を与えます。間違いなく、セザンヌの表現技法は「発明品」と呼ぶにふさわしいでしょう。

美術史という文脈で捉えたとき、「発明品」は他の作品への影響を与えます。そのため、「発明品」のような特徴を持つ作品は人気が集まり、価値が高くなります。

ただ、アートの歴史は古代から始まり、多岐にわたってきました。「全くの発明品」というものは今ではほとんど見られることはありません。

そこで複数の技法やコンセプトを組み合わせた作品が、今後の「発明品」となっていくことでしょう。

インパクトがあること

「インパクト」とは、単に見た目の迫力だけでなく、「その作品のメッセージが社会に与える影響の大きさ」を含めて指します。

社会的意義やイデオロギーをもつ作品であったり、人々の共感や感動を呼ぶもの、はたまた刺激的な事件として取り上げられるもの。いずれにせよ、その時代を切り取り、また時代の象徴になりうる作品がインパクトのあるにふさわしいでしょう。

素人の戦い方

こうした「発明品」や「インパクト」を見るための目を一朝一夕で養うには無理があります。

  • 「発明品」は美術史の流れや、現代アートへの理解
  • 「インパクト」はアート自体の社会性の読み取りと、需要の予測

といった力が必須。しかし素人にはとてもじゃないがムツカシイ!

そこで、筆者が提案するのは以下の3点。

  • 専門家の意見を聞く
  • 座学で身につけるだけでなく作品を観まくる
  • そして実際に買ってみる

これが素人の戦い方です。

ようは「戦いながら強くなれ!」ってわけですが、きちんとした基準をもって購入しさえすれば、大きく失敗することはありません。その指針とは、

  • 若手アーティストの
  • 代表作を
  • セカンダリー・マーケットで買

最後にこれらを確認し、アート投資へ旅立ちましょう。

「誰の」「何を」「どこで」買い、「いつ」売るのか

「誰の」作品を買うのか

ひとつ質問ですが、みなさまはゴッホやピカソ、草間彌生といった超有名アーティストの作品を買えますでしょうか。

投資のためにと数億円出せる人でないと、手が出せないことでしょう。

ちなみに、過去の高額売買が以下の通り。
「$100」とか書いてて「安いじゃーん」と一見思いますが、「価格(単位:百万)」という文字に二度見します。つまりは日本円だと100億円とかそういう世界。

高額な絵画の一覧 - Wikipedia

ポートフォリオに占める割合が5%程度であれば、数万円〜数十万円くらいしか買えないひとが大部分のはず。

そこで、買うべきは「若手アーティスト」に限られてきます。

若手であれば誰でもいいのかというと、もちろんそんなわけでもありません。成功するアーティストは以下の傾向があります。

  • アンテナを張っている
  • コミュニケーション力がある
  • あきらめない忍耐力がある

つまり、アートだけでなく社会への鋭い観察ができ、作品を自身でアピールをし、作品を書き続けられるアーティストが成功を掴みます

作品の善し悪しはありますが、それ以上にアーティスト自身がこれからも良い作品をつくれるのか、ここを見極めなければなりません。まず手始めに、アーティストのTwitterやFacebookなどSNSをでの発信を確認すること。そしてSNSだけでなく、実はアーティストに会うこともできちゃいます

ギャラリー(画廊)で行われるアーティストの展覧会初日には、アーティスト本人が必ずいます。作品をつくるにいたった動機や、込めた思いなどを聞ける最良の場が展覧会初日なのです。

展覧会情報は下記サイトであったり、アーティスト自身のSNSなどで確認できますので、是非参考にしてみてください。

GUIDE"
Contemporary Art Gallery in Tokyo
美術・芸術情報総合サイト ギャラリーガイドネット
全国の画廊やギャラリーの情報を発信する「ギャラリーガイドネット」
美術館・展覧会
美術手帖が運営するアートポータルサイト。アートジャーナリズムとして、ニュースを中心にクリエイティブ・マインドを刺激するコンテンツを発信します。

「何を」買うのか

アーティストについて知ることができたら、次のステップは買うべき作品の見極めです。

筆者は、購入時の鉄則の一つとして「代表作を買うべし」と断言しています。

代表作は、アーティスト自身の価値が高まるにつれて価格も上昇を続けます。
のちのち売ることも考えると代表作を買うことはマストであると言えます。

で、どのような作品が代表作かというと、展覧会のウェブサイトなどでメインビジュアルとなっている作品がそれにあたります。メインビジュアルの作品は、展覧会とアーティストの意見が一致し、「この作品が一番だよね」と考えられていることからも明らかです。

筆者は代表作を買うべきタイミングとして、展覧会初日を挙げています。人気の高い作家の場合ですと、すぐに売り切れてしまうためです。

しかしながら、我々素人はそうもいきません。

そのアーティストが、作品が本当に今後伸びるのかといった目が養われていないから!

というわけで、価値がある程度担保されている場所で買いましょう。

そこは、展覧会ではなくセカンダリー・マーケットです。

「どこで」買うのか

マーケットにはプライマリー・マーケットセカンダリー・マーケットの2種類があります。

  • プライマリーとは、一次作品のこと。ギャラリーなどでアーティストがつくったばかりの作品を展示、販売している場合、プライマリー・マーケットと呼ばれます。
  • セカンダリーはその反対で、一度購入された商品が新たに売られるオークションハウスなどがセカンダリー・マーケットにあたります。

ここで素人が最初に購入するべき場所は、実は「セカンダリー・マーケット」です。

というのも、プライマリーだとまだ価値づけがきちんと行われていません。だからこそ、安く買えるわけではありますが、ここで価値の上がるであろう作品を購入するには相応の「目」を必要とします。

たとえばラッセンの絵はプライマリーの段階では高値がついたものの、その後価値が20分の1に落ちてしまいます。こうした事態をさけるために、目を養った上でプライマリー・マーケットに飛び込みましょう。

その点、セカンダリーだと過去の売買価格の推移も確認できます。プライマリーに比べ価値の大幅な上昇はないものの、価値が大きく下落するという危険性も少なくなります。

購入の中で、セカンダリーに出品されている作品を観察することを忘れてはいけません。どのようなアーティストの作品がプライマリーからセカンダリーに出されるのか。この感覚を掴むことが第一と言えます。

その後、プライマリーも購入してみて、プライマリーとセカンダリーの作品を組み合わせながら運用してみましょう。

で、「いつ」売るのか

「投資は、売るのが一番難しいんだよ」

株式などについてもよく言われることです。株式に関しては、時価の推移に狼狽せず、超長期で保有していた方がいいんじゃないのー?とか言ってたりしますが、じゃあアートは?

アートに関していうならば、10年保有する」を基本的なスタンスとすることを意識しましょう。

というのも、売買手数料が1015%と高額なので、短期トレードでは利益を出すのが難しくなってきます。また、アーティスト自身の成長に伴って価値が向上するので、価値の上がり始めがまちまちでもあります。そのため、長期投資にならざるをえないのです。

少なくとも数年は保有し、飾るなどして自らも楽しみながら、気がついたら高額になってる。このくらいの距離感が丁度いいです。そして少しずつ、コレクションを増やしていきましょう。

ぼく個人としては

1年ごとに作品を買い、10年目に年1作品ずつ売る。

といった運用を目指します。

まとめ

先日、こんな記事が話題になっていました。

IT系起業家が買いまくる「アート投資」の超熱狂
「落札します。2600万円、2600万円、2600万円――」競売人(オークショニア)が高らかにそう宣言し、ハンマーを振り下ろした。1月末の土曜日、東京・代官山で現代アートのオークションが開催された。2600万円(落…

アート市場が、あらたな投資の場として盛り上がりつつあるとのことで、関心が寄せられています。こうした反面、SNS上では

  • 「アートを楽しめないんじゃない?」
  • 「アートが金に汚される」
  • 「金持ちの遊びだ」

などの否定的意見も散見されます。

消費社会の中に、アートが組み入れられてしまう、ということへの恐れは確かに理解できます。しかしながら、これまで見てきたように

  • アートを見る素養
  • アートとアーティストへの能動的な関心
  • 作品と長く付き合う必要性

ということが求められるのがアート投資です。

「金」がきっかけで始めたアート投資であっても、興味や関心、そして愛がなければ続けられないものでもあります。

本書の著者はあとがきの中で、アートの価値が正しく理解されていないことが、アート市場が日本で活発してこなかった要因であったと述べています。それゆえ、アニメなどのいわゆる「クールジャパン」への資金流入はあれど、アートへの産業界からの視線は冷たいものです。

今後、日本でアートが活発化するには、若手でもある程度食べていける仕組みを、資本主義を通してつくっていく必要があるのです。

そのような仕組み・文化の形成のために、アート投資もあるかもね、なんて考えてみたらいかがでしょうか。

本書ではここで触れられなかった「アート購入の鉄則」「10万円以内で買えるおすすめアーティスト20選」など、興味深いコンテンツ盛りだくさんなので、アートに興味なかったひと、お金に興味のなかったひとも読んでみたらいかがでしょうか。

『教養としてのアート 投資としてのアート』徳光健治
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