昨今、SDGsやカーボンニュートラルがさらに話題になってます。米大統領が変わったことが大きな要因の一つです。バイデン政権が公約で温室効果ガス排出量を2050年までにゼロにすると掲げたため、日本もそれにならい同様の脱炭素化の取り組みが為されています。
太陽光発電であったり風力発電といった再生可能エネルギーが注目されてきたのですが、ここにきてアンモニア発電がCO2を排出しないということで注目されています。
この記事はこんな方におすすめです
「アンモニア発電って何?」
「なんでアンモニアが注目されてるの?」
「アンモニアって生成時にCO2を発生させるんじゃなかった?」
専門的な部分をできるだけ省いて、わかりやすく解説していきますね!
アンモニア発電とは?
アンモニア発電とは
アンモニア発電は火力発電の一種です。石炭や石油、液化天然ガスの代わりにアンモニアを燃焼させ、その熱エネルギーで蒸気タービンを回して発電します。石炭や石油は燃焼時、温室効果ガスの原因とされるCO2を発生させますが、アンモニア燃焼時にはCO2が発生しないため、新たな燃料として注目されています。
そもそもアンモニアとは
アンモニアといえば「おしっこ」のイメージを持たれる方も多いかもしれません。日々の食事を分解する際、微量のアンモニアが発生し、おしっことして排出されます。おしっこのツンとしたイヤ〜な臭いの正体が、このアンモニアです。常温・常圧で無色透明の気体です。
アンモニアを化学式で書くと、窒素(N)が1つと水素(H)が3つで形成されていることがわかります。工業的には窒素と水素を反応させることで、アンモニアをつくることができます。
- NH3
- N2 + 3H2 → 2NH3
ただ、高校とかの化学の実験では、水酸化カルシウムと塩化アンモニウムを反応させることでアンモニアの生成を行うと思います。「アンモニアは空気より軽く水に溶けやすいから上方置換で集めるんですよー」とか言われた記憶ありませんか。
アンモニアは、毒性も持ちますので、取り扱いは十分注意してください。(めったに扱わないとは思いますけど……)
アンモニアって燃えるの?
アンモニアは実は燃えるんです。燃えなかったらアンモニア発電にならないから当然といえば当然なのですが。化学反応式は以下の通り。
- 4NH3 + 5O2 → 4NO + 6H2O
アンモニアの燃焼をわかりやすく紹介してる動画がありますので、こちらもご覧ください。米村でんじろう先生のYouTubeチャンネルの動画で、アンモニアの燃焼と科学の「推測と検証」の面白さが詰まってます。
この動画を見るとわかるのですが、アンモニアの燃焼は弱くて不安定です。
「アンモニア発電、CO2出ないけど現実的ではないよねー」
と言われてきたのが、この燃焼の弱さと不安定さのためでした。
この課題を解決した研究が近年為され、実用化に近づきました。
日本の研究者がアンモニア発電を実用化に
従来どおりのアンモニアの燃焼だと、力は弱く、かつ不安定。この課題を解決するために編み出されたのが、アンモニアをタービン内で旋回させるという発電です。
特殊なバーナーを用いて、タービン内にアンモニアガスを渦を描くように噴出させます。バーナーの回転速度や角度などを何度も調整すると、その火炎が安定することが確認できました(下図)。
メタンとの混合気体での発電が成功し、またアンモニアのみのガスでの発電も成功を収めました。今後の展開としては、従来の石炭、液化天然ガスをはじめとした火力発電にアンモニアも原料として混ぜることでCO2排出量を抑えるほか、アンモニア100%の発電を運用することが考えられています。
アンモニア発電、スゴイじゃん! と言いたい気持ちはありますが、アンモニア発電には、メリットがあるのと同時にデメリットもあります。次はアンモニア発電のメリット・デメリットとしてどんなことが挙げられるのか確認しましょう。
アンモニア発電のメリット・デメリット
アンモニア発電のメリット
アンモニア発電の最大のメリットが「燃焼時、二酸化炭素を発生させない」ということ。
- 4NH3 + 5O2 → 4NO + 6H2O
先述したとおり、「CO2を含む温室効果ガス排出量を2050年までにゼロにする」という世界的潮流の中で、水素発電と同様にアンモニア発電も着目されています。
アンモニア発電のデメリット
一方でアンモニア発電のデメリットは以下のとおりです。
- 燃焼時、酸性雨などの原因にもなるNOx(窒素酸化物)が発生
- アンモニア生成時にCO2が発生
「1」については、燃焼方法によって排出量を抑えられることが判明しており、研究が続けられています。主として問題となっているのは「2」のCO2排出について。
- N2 + 3H2 → 2NH3
このように、アンモニア自体の合成ではCO2が排出されません。しかし、アンモニアは従来ハーバー・ボッシュ法(後述)により窒素と水素を反応させます。その際、約500℃ほどの高温が必要になってきます。
この「高温」を実現させるためにめちゃくちゃ火を起こすから、結局CO2発生するじゃないですかー!
この「高温・高圧の実現」が従来のアンモニア生成法の課題です。
ただ、こうしたアンモニア生成も現在見直されつつあり、「いや、こういう方法ならCO2出ないよね」という生成法がいくつか研究されています。バイオマスを用いる生成法や、低温・低圧での合成、海水からの生成法、下記に取り上げるニトロゲナーゼを用いた生成法などなど。
最後に、アンモニア生成法を確認しつつ、アンモニア発電の今後を考えていきましょう。
アンモニア発電の今後
従来の生成法 〜 ハーバー・ボッシュ法
新アンモニア生成法の前に、あらためてハーバー・ボッシュ法をちょっとだけ詳しく見ていきましょう。
ちなみに。「ハーバー」も「ボッシュ」も人の名前で、フリッツ・ハーバーさんとカール・ボッシュさんがふたりで開発したからハーバー・ボッシュ法です。さらにちなみに、ふたりともノーベル化学賞を受賞しました。ハーバーはハーバー・ボッシュ法で1918年、ボッシュはこの方法を発展させた研究で1931年に受賞。
20世紀初頭、ハーバーは高温高圧下で鉄を触媒にすることで、窒素と水素が反応してアンモニアが生成されることを確認。この「高温高圧」ってどれくらいかと言えば1000℃で100気圧(当時の見積り)。1900年代と言えば工業が発展したことで知られてますが、当時はまだ7気圧すらまともに保てなかったわけです。で、ドイツの総合化学メーカーBASFとボッシュの協力のもと、生成環境が整えられ、アンモニアの大量生産が実現しました。
※詳細は英語版Wikipediaハーバー法の歴史などを参照してください。
このハーバー・ボッシュ法は現在、約500℃・約200気圧ほどで生成され、かつ原料の水素はメタンを始めとする天然ガスや石油からつくられていることから、あまり地球に優しい製法とは言い難いものです。
そこで長らく地球に優しいアンモニア生成法が模索され、近年、ようやく解決の糸口が見つかりました。なんと日本の研究者が世界初、常温・常圧下で窒素と水素を合成しのアンモニア生成に成功したのです。
新アンモニア生成法 〜 ニトロゲナーゼをもとに
東京大学の西林仁昭教授は、一昨年2019年に科学誌「Nature」にアンモニアを窒素と水から常温・常圧で簡単かつ大量、しかも、高速に合成する方法を発表しました。実用化にはまだ至っていないものの、アンモニア合成プロセスはかなり現実的。
マメ科植物に共生する「根粒菌」は「ニトロゲナーゼ」という酵素を持ちます。このニトロゲナーゼは、常温・常圧で、空気中の窒素と水分からからアンモニアを作る働きがあります。この反応から着想を得て、モリブデン(Mo)を触媒にすることで常温・常圧下で窒素と水からアンモニアを合成することに成功しました。
この反応には「ヨウ化サマリウム」という素材が必要であり、サマリウム自体が希少な素材であることから、回収・再利用のサイクルを確立する必要があります。ここがクリアできれば、実用化・工業化へ踏み出せるようなので、注目されている技術です。
まとめ
電気自動車の普及が目前に迫る中、
- たくさん発電しなきゃ!
- でも地球は守らなきゃ!
という二律背反が2020年代の課題になっています。
先日、東京電力と中部電力の火力発電事業部が統合した「JERA」が、アンモニア発電に向けて動き出しました。JERAは、マレーシアの国営企業「ペトロナス」と協力し、技術協力を仰ぎ、自社でアンモニア生産を目指しています。
マレーシアの水力発電を活用することで、アンモニアを生産を検討しているとのことです。
2050年CO2排出量ゼロに向け、再生可能エネルギー発電事業が活発化しています。アンモニア発電は、まだ実用化には至っていません。ただ、今後のひとつのトレンドになることは間違いないものです。今回の知識が何かの役に立ってくれれば幸いです。