確定申告の時期になると、所得の計算であったり様々な控除の確認だったりと、てんやわんやしているひとをSNSなどで見かけます。特に、知り合いに個人事業主がいれば、確定申告の大変さについて聞かされているかもしれません。
この「確定申告」に付随して、「青色申告」という言葉を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。しかし、この「青色申告」とはなんでしょうか? そもそもどうして「青色」なのでしょう。どうして赤色や緑色ではないのでしょうか。
「青色申告してるから、制度については知ってるよ」という方でも、「青色申告」のそのものの歴史はご存じないはず。
この記事の内容は以下のとおりです。
- そもそも「青色申告」とはどんな制度か
- 「青色申告」がどうして「青色」と呼ばれるようになったのか
- 「青色申告」のモデルとなった「ガラス張り経営」とは
青色申告をするだけでなく、その歴史も知っていると鼻高々ですね。
一緒に「青色」の歴史を紐解きましょう!
青色申告とは何か
青色申告制度
青色申告制度は、1949年12月「所得税法の臨時特例等に関する法律」で導入されました。
青色申告制度について、全国青色申告会総連合では以下のように記載しています。
青色申告制度は、一定の帳簿を備え付け、帳簿に日々の取引を記帳し、その記録にもとづいて、正しい所得金額や税額を計算し、確定申告をおこない納税する制度です。
青色申告ができるのは「不動産所得、事業所得、山林所得」のあるひとです。
「これら所得金額をきちんと計算した上で、所得税を納税しました!」という申告が「青色申告」です。この申告を行うためには、年間の収入や必要経費をきちんと記録し、その際の取引に伴う書類もきちんと保存しておかなければなりません。
メ、メンドクサそう……!
ただ、こうした「メンドクサイ」ことを正しく行った青色申告者には税制上のメリットが多く設けられています。ようは節税ができるわけです。
青色申告の節税効果
青色申告をした場合、以下の節税メリットがあります。
- 青色申告特別控除
- 純損失の繰越控除
- 純損失の繰戻還付
青色申告特別控除
「青色申告特別控除」とは、青色申告者の所得金額に一定の控除を受けることが出来る制度です。期限内に申告し、正しい「貸借対照表」「損益通算計算書」を提出した人は55万円(電子申告の場合は65万円!)の控除が受けられます(所得金額が限度)。
純損失の繰越控除
青色申告者の純損失を、翌年以後3年間繰り越して、各年の総所得金額などの控除に用いることができます。
純損失の繰戻還付
青色申告書を提出していれば、純損失の一部を前年の所得金額と相殺し、前年におさめた所得税の還付が受けられます。
その他、「青色事業専従者給与」「貸倒引当金」などがあります。
割愛しますが、詳細は国税庁のサイトを確認ください。
なぜ青色申告は「青色」なのか
シャウプ勧告
青色申告制度は、ある報告書に基づいて1949年12月より導入されました。
それこそが「シャウプ勧告」と呼ばれる報告書です。
戦後、日本を統治するGHQは、「経済安定九原則」として日本の自立を求めます。その中のひとつ、「徴税システムの改善」のために「シャウプ勧告」がなされました。1949年、カール・シャウプを団長とする「シャウプ使節団」が来日。シャウプは全国各地の税制を視察し、不公平が生じたり脱税が行われたりしない徴税システムを勘案します。
その施策のひとつとして、申告納税の水準向上を図るために「青色申告制度」を導入しました。そのとき「青色申告」という名が付けられたとされています。
つまり「青色」って名付けたのがシャウプさんなのか!
青色申告と白色申告
「青色申告」がわざわざ「青色」というように色を変える必要があったのは、それ以外の申告者と一目で区別がつくようにという意図があります。青色申告でないものを「白色申告」と呼びます。
青色は気持ちのよい色
「青色」となった有力な説として、「シャウプが車の中で、日本人運転手に青色のイメージを尋ねると『青色は気持ちのよい色です』という答えがあり、確定申告書の色を青色にしようと決めた」というものがあります。
この説は播久夫『実録・青色申告制度四十年史』にて登場します。1972年、来日したシャウプに播は「なぜ青色を選ばれたか」を尋ね、以下の回答を得ました。
まじめな納税者について何色が適当であるかについては、時間をかけて議論をしなかった。5分間ぐらいの議論ではなかったかと思う。何となく青色がよいのではないかとされたが、ここでは結論を出さなかった。後日、視察のために自動車に乗ったときに、日本人の運転手に「日本人は青色をどのような感じで受けとめるだろうか」と聞いてみたところ、「ああ、青色は気持ちのよい色ですよ。青空のようにスッキリした色ですからね」という答えがハネ返ってきた。そこで、やっぱり「青色にしよう」と決めたわけである
『実録・青色申告制度四十年史』(播久夫 1990年)(太字・引用者)
つまりそれまで漠然と「青色でいいんじゃないか」とされていたところを、日本人運転手が「後押し」したような形となる。それではどうして第1候補として「青色」が挙がったのでしょうか。
米国の「blue return」
「国税庁レポート 2004」では「正確な申告=クリーンなイメージということから、青色が選ばれた」という説とあわせて、次のような説も紹介しています。
なぜ青色なのかということについては諸説あります。一つがアメリカで当時導入されていた制度が青色の申告書(blue return)を用いていたからとの説です。
「国税庁レポート 2004」(太字・引用者)
つまり、アメリカで青色の申告書で申告されていたので、日本でも同様に「blue=青色」での申告書としたのではないか、ということです。
まとめ 青色の背景
以上をまとめると、次のように言えます。
アメリカにはすでに「青色の申告書」あった。それを見ていたシャウプは「まあ日本も青でいいか」と思っていた。後日、日本の運転手に「青色はどんな色ですか?」と尋ねたら「気持ちのいい色です。青空のようにスッキリした色ですから」と返答があった。その返答を受けてシャウプは「よし、青にしよう」と決めた。
公式な記録として残ってはいませんが、こちらが「青色」となった背景なのではないでしょうか。
現在、e-Taxでの申告もあり、すでに「青色の申告」がなくなりつつあります。日野雅彦はこの「青色」について、「用紙の色が青色の申告書と解するのではなく、税法における固有の概念として理解すべきものとなろう」と述べています。つまり「青色」が持つ「すっきりとした/清々しい/正直な/正確な」というイメージを付与して(付与されるようになって)「青色申告」と現在でも呼ばれているのではないでしょうか。
おまけ 青色申告のモデルになった「ガラス張り経営」
「青色申告制度」のひとつのモデルとして、「ガラス張り経営」というものがあります。
1948年、目黒区で洋品店を経営していた喜多村実は、「ありのままの経営実態」を申告する「ガラス張り経営」を実施します。
これまで、納税額が少なくなるようにと過少申告をする者も少なくなく、税務署による処罰も多々発生します。ここで、仮に冤罪であった場合、きちんとした帳簿をつけていない者には反論する材料がありません。こうした背景から、喜多村は正しい記帳を行い、正しく課税されるべきとして、「ガラス張り経営」の必要性を感じます。
翌1949年、シャウプは喜多村の「ガラス張り経営」について情報提供を求め、青色申告制度の構想へと結びついたのだとされています。